近現代アートの楽しみ方の達人
新家靖之(しんかやすゆき)さん
(社)日本旅行作家協会会員

1946年生、メーカーの管理部門に勤めながらも、毎年、長期休暇をとって好きな近代・現代絵画や建物をテーマに個人旅行を実践。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの近代・現代絵画、建物などテリトリーは世界中に及ぶ。2007年12月の定年を機に、世界中の近代・現在アートの楽しみ方や素晴らしさを同じ熟年世代に伝えたいとの思いから「地球の歩き方 旅の達人(旅のコンサルタント)」に応募、2008年2月より「近現代アートの楽しみ方の達人」として活動を開始した。
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    イスタンブ−ルからロ−マへの21日間の旅(イスタンブ−ル1)

    イスタンブ−ルは、「ヨ−ロッパとアジアの架け橋」と言われています。ボスボラス海峡を挟んで西がヨ−ロッパ側、東がアジア側になります。ヨ−ロッパ側は、金角湾を挟んで新市街と旧市街に分かれています。イスタンブ−ルは、現在でも大きな市街地を形成していますが、今も郊外に建物が広がり続けている巨大な街です。紀元前より栄え、ロ−マ時代は、ビザンティウムやコンスタンティノ−プルと言われました。ロ−マ帝国分裂後、東ロ−マ帝国の首都として、東西交易の中心都市として隆盛を誇りました。オスマン帝国も、この街を首都に定め、名前をイスタンブ−ルと改め現在に至っています。

    トルコ第一の規模を誇るイスタンブ−ルですが、首都ではありません。首都は、アンカラで、トルコ共和国を成立させ、トルコの父<アタチェルク>と国民に慕われるムスタファ・ケマルが、1923年に共和国成立を機に政教分離と国防上の理由で首都を移し現在に至っています。

    古い歴史を持つトルコは、面積も、日本の2倍もあります。多くの世界遺産が、広い地域に点在します。移動時間だけでも多大の時間を要します。

    今回は、イスタンブ−ルだけに絞ることにしました。イスタンブ−ルもよく調べるとたくさん見たいところがあります。検討した結果、56日の日程となりました。ホテルは、イスタンブ−ルの庶民の生活圏、旧市街のトプカプ宮殿に近くに決めました。イスタンブ−ルは、交通機関がよく整備されています。地下鉄、トラム、バス、ケ−ブルカ−、そしてフェリ−とあらゆる乗り物が市内を走っています。そして、それらを共通に使えるカ−ドもあります。旅行者には、便利な街といえます。

    第一日目の朝、トプカプ宮殿に向かいます。丸い石を敷き詰めた石畳の坂道を降りていくと、トラムが走る通りに出ます。民族衣装の男女や西洋人のグル−プが、大きな門に吸い込まれていきます。少し上がり勾配の坂道が、ゆっくりと曲がりながら続いていきます。国立考古学博物館の門の前では、小学生の一団が、楽しげに騒いでいます。そこを登りきると皇帝の門からくる道と交差します。周囲は、小高い場所にある第一庭園と呼ばれる大きな広場です。プラタナスが道の両側に植えられ、葉の緑と朝の新鮮な空気が清々しく感じます。

    開園時間直後にも関わらず、チケット売り場は、多くの人で混雑しています。日本語のパンフレットや音声ガイドの機器もあります。片言の日本語で「メンキョショ」との言葉が返ってきます。音声ガイドのデポジットの為で、手慣れたものです。

    最初は、左側のハレムから行くことにしました。ハレムは、トプカプ宮殿の見どころの一つですが、別の博物館として取り扱われています。

    建物内部は、入った直後は、外の陽光の強いせいもあり、少し薄暗く感じます。しかし、目が慣れるにつれ、壁面や天井の薄いブル−の文様が、はっきりと見えるにつれ、その精緻さに驚かされます。多くの部屋が、それぞれ特徴ある文様で統一されています。しかし、全体の雰囲気は、閉ざされた感じがぬぐいえません。窓にも、格子が据え付けてあります。案内路は、右に左に迷路のようにハ−レムの内部に続いていきます。そして、陽光の輝く外に出ました。何故か、ホットします。五月にもかかわらず、太陽の光が、強烈に感じます。

    バ−ダット・キョシュシュという建物に向かいます。バ−ダット・キョシュシュは、精緻極まりないデザインで壁や上段の窓のステンドクラスを飾っています。しかし、下段の窓は、単純で簡潔なデザインで装飾しています。その微妙なバランスの見事さは、現代にも通ずるセンスを感じます。誰が、どのようにして思いつき、制作したのかと考えると、楽しくなります。バ−ダット・キョシュシュからは、金角湾が見えます。大小の船が行きかっています。遠くには丘のような新市街が見えます。これらの景色を背景に多くの人が、黄金の屋根のイフタリエと呼ばれる展望台で、それぞれのポ−ズの記念写真を撮っています。時刻は、丁度、昼さがりになるところです。

    第四庭園に向かいます。庭園先の高台からは、ボスボラス海峡とマルマラ海そして対岸のアジア側の風景がパロラマのように広がります。海峡を行き交う大小の船の数は,想像以上の多さです。

    「これが、アジアとヨ−ロッパの境界だ。」と思いながらしばし海峡を眺めていると、昔、聞いた庄野真代の「飛んでイスタンブ−ル」の歌詞、『いつか忘れていった。こんなジタンの空箱〜』のエキゾチックな雰囲気が思い出されました。

    昼下がりの宮殿には、続々と多くの人が入場してきます。特に、子供達の集団の多さには、驚きました。歴史教育を兼ねての遠足のような感じです。多くの小学生や中学生の集団が長い行列をして「謁見の間」や「宝物館」を取り巻いています。すれ違う際には、嬉しそうな笑顔でこちらを見つめていきます。中には、挨拶をする少女や少年が、たくさんいます。トルコは、親日的な国だといわれますが、これらの様子で実感します。

    トプカプ宮殿を後にして、グランドバザ−ルに向かいます。午後の日差しは、強烈です。

    休息と昼食を兼ねて軽食を提供する食堂に入りました。横手でおいしそうに食べている男性の料理を指さし注文しました。「Beer」というと無いとのことです。そうか、イスラム圏なのかと改めて思いました。代わりに「Tea」を頼みました。ミントの香りが喉に清々しく疲れを忘れさせてくれました。

    中東最大のグランドバザ−ルは、黄金の輝きの印象です。ド−ム上の天井を持つ市場は、広い通路から細かい通路が蜘蛛の巣のように交差します。貴金属、陶器、ガラス細工、民芸品、カバン、時計、革製品、布地、雑貨、そして絨毯を売る店と多くの小さなショップが、きらびやかな光の中にお互いの商品を所狭しと陳列しています。

    流ちょうな日本語で呼び込みをかけます。「トウキョウニイタ」「ヤスイヨ」の声が飛び交います。

    庶民的な感じではなく、観光地化した印象は、ぬぐえませんが、多くの観光客が狭い通路を行き交う様は壮観です。バザ−ルの中をあちこち歩いているうちに夕刻の時刻となりました。こうしてイスタンブ−ルの一日目が過ぎていきました。

     


     トプカプ宮殿の扉


     トプカプ宮殿のステンドグラス


    バーダット・キョシュシュの中庭


    ボスボラス海峡