近現代アートの楽しみ方の達人
新家靖之(しんかやすゆき)さん
(社)日本旅行作家協会会員

1946年生、メーカーの管理部門に勤めながらも、毎年、長期休暇をとって好きな近代・現代絵画や建物をテーマに個人旅行を実践。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの近代・現代絵画、建物などテリトリーは世界中に及ぶ。2007年12月の定年を機に、世界中の近代・現在アートの楽しみ方や素晴らしさを同じ熟年世代に伝えたいとの思いから「地球の歩き方 旅の達人(旅のコンサルタント)」に応募、2008年2月より「近現代アートの楽しみ方の達人」として活動を開始した。
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    ネパールのKAZE(その4 月の家へのトレッキング )

    早朝にも関わらずカトマンズの空港は、多くの人で混雑しています。ポカラへ向かう飛行機は、満席です。右側の窓からヒマラヤの山々が見えるとの事で右側の席に座ります。右側の席から座席は埋まっていきます。右側ばかりでは飛行機が傾かないかな?とつまらぬことを考えます。いとも簡単に飛行機は飛びあがります。ポカラまでの1時間の旅です。水平飛行になるとヒマラヤの山々が窓からみえます。雪を頂いた山々が切れ目なく連なります。海が隆起して出来上がった山々、自然の営みの壮大さは人知のおよぶところでないと感じます。乗客は、窓に釘付けになり外の景観を見続けています。小さい時から地図の上では見慣れた場所、しかし、何故か自分とは縁遠い気がしていた土地、ヒマラヤに来たのだ。感動がこみ上げてきます。

    ポカラの空港は、陽光に包まれ暖かく亜熱帯の佇まいに満ち満ちています。とても3月上旬とは思えません。緑の葉は艶やかですし、花は原色の色彩に溢れています。私達を登山道まで乗せるバスの用意が出来るまで空港のゲストハウスで待ちます。壁に周辺の案内の大きな地図が張られています。地図を辿るのは楽しい作業です。今はここ、そしてこれから行くところはあそこ。その間にどのような風景があるのか!想像が膨らみます。

    ポカラの町をマイクロバスはかなりのスピードで走ります。両側には色々な商店が連なります。多くの人が行きかいます。町は、喧騒に満ちています。そして、徐々に露店が点在する風景に変化します。ネパールの農村です。道路は舗装されどこまでも続きます。眠気が襲ってきます。

    人の話し声で目が覚めます。バスは茶店の前で止まっています。乗客がバスから降ります。道の一方は山が迫り崖になっています。店の反対側は川のようです。バスの正面からは、舗装された道路が、はるか遠くまで続いているのが見えます。登山道の入口?

    茶店で一同は、トレッキングの装備を確認します。崖に張付くように石畳の階段が見えます。トレッキングの開始です。沢山の人に踏みしめられた階段の石の表面は、艶やかです。一歩一歩、ゆっくりと登ります。階段は、木々の下を九十九折に高度を上げていきます。少し登ると息が切れ、汗が額をつたいます。日頃の運動不足を感じます。登れるだろうか?不安が脳裏をよぎります。ゆっくり登ればいいや!下を向き、ゆっくりと歩みを進めます。ユックリ、ユックリ。そうして、小休止、下をみます。バスが走ってきた道がすぐ下に見えます。これだけしか登っていないの、少し、がっかりします。又、階段を一歩一歩登り始めます。

    階段を登り切るとネパールの山村の入口です。小さな広場になっています。広場は、平らな石を整然と積みあげた擁壁に取り囲まれています。一同は、ここで大休止です。道路と川が遥か下にみえ、山肌を縫うように連なります。広場の木々は、赤い花が咲いています。爽やかな風が肌に心地よく感じます。村の人が、のんびりと佇んでします。小鳥のさえずりが聞こえてきます。ゆっくりとした時間が流れています。

    汗が収まり、人心地ついた時点で、さあ、出発です。しばらくは、畑の中の道を歩みます。点在する家は、平らな石を組み合わせて作られ、その壁に沿い多くの薪が積み上げられ冬の厳しさを感じさせます。家の軒には、トウモロコシが吊り下げられています。壁面に宗教的な図柄の絵模様を描いた家もあります。家の中から水牛の顔がのぞいています。青い空には猛禽類の鳥がゆっくりと弧を描いています。不思議な事に人の気配が余り感じられません。畑にも農作業をする人が見えません。静かな、しかし、少し寂しい農村風景です。

    中間点の茶店を過ぎ、最後の登りにかかります。石畳の階段は、一層険しく急勾配になります。右に左に幾重にも曲がりながら階段は続きます。そして、木々がなくなり、稜線と思われる地点が見えてきました。最後の登り、急に元気がでます。

    稜線に出ると、車道と思しき道と交差しています。雲が正面の空を薄く覆っています。風に乗って濃くなったり薄くなったりしています。突然、雲が切れます。想像していた目線の遥か彼方の上空にマチャプチャレが現れます。見上げるばかりとも思える上空に山の頂はあります。ネパールの人が「神の山」と敬う山塊です。稜線沿いに月の家に向かいます。「神の山」は、現れては消え、そして現れます。月の家までは、もう少しです。

     

     


      ポカラ周辺の地図


        トレッキング風景(道と川)

        赤い花



       山村の広場にて


        佇む女性
     

            山村の家

         
           神の山